物質化学研究紹介教員紹介齊藤安貴子
教授 齊藤安貴子 
 「酒は百薬の長」「医食同源」というように、昔から食している食品は健康に良いとされます。しかし、これらが何故健康によいのか、どの成分が効果を発しているのか、本当に安全なのか、化学的に証明されているものは実は少ないのです。未だに、経験的に、伝承のように伝わっているものが多いのが現状です。何故でしょうか。私は、食品に含まれる活性物質の性質によると考えています。
 食品に含まれる活性物質は、長期で摂取して効果が得られるものが多く、さらに、大量に摂取しても排泄される、または、迅速に分解されるのだと考えられます。これは、動物・人間が長い年月をかけて取得してきた機構だと予想できます。必要量を取り込み、余分は排泄する、もしくは、大量摂取しても毒性がなく、徐々に効果を発揮するように、私たち人間も進化してきた可能性があります。一方、現在用いられている薬(医療に用いられる薬剤)は、ほとんどが短時間で効果を発揮するものです。なぜなら、病気の治療には短期で効果を発揮する薬が必要とされる事、それに加えて長期で効果を示す化合物の活性試験の構築が困難である事が理由として挙げられます。
 近年、医学・薬学の進歩により、多くの効果的な薬が開発されており、病状を悪化させない事が出来るようになりました。しかし、効果が早い、良い薬剤には副作用がつきものであり、諸刃の剣とも言えるでしょう。現在、社会の進歩等により様々な病気が蔓延し、特に、成人病等の慢性疾患が問題になっています。慢性疾患薬のように、半永久的に飲み続ける薬にとって副作用は重大な問題だと考えています。
 私達は、これからは、「病気を予防する」「病気にならない」「副作用の少ないマイルドな薬の開発」が必要だと考えており、昔から食している食品由来の化合物にその可能性があると考えています。しかし、前述のように、長期で効果を発揮する化合物の同定や検証は、現存の技術では実際非常に難しいのが現状です。
 さらに、食品由来の化合物は単体ではなく、混合物で効果を発揮している可能性や、経口で取り込んだ後の代謝により、活性を得ている可能性も考えられます。このように、食品に含まれる化合物の研究は非常に難しいのですが、「化学」「有機化学」「分子生物学」の技術と手法を使う「化学生物学」「ケミカルバイオロジー」によって解決できると考えています。
 実際の研究の流れとしては、「有機化学」の力を使って、食品由来の活性化合物や、身近な原料から得られる生物活性化合物を合成し、それらの活性を保ったまま、生物系の実験で使用できる「プローブ」に作り変えます。そして、そのプローブを用いた「化学生物学」的な手法により、生体分子との相互作用を測定し、活性発現機構を解明します。
 このように、私達は、化学と生物の両方の技術を使い、これまで解明できなかった生命現象の解明を目指します。両方の技術・知識を使いこなす事は並大抵の事ではありませんが、こつこつと日々実験を重ね研究成果を出すために努力しています。


最近の研究論文

"Vipirinin, a coumarin-based HIV-1 Vpr inhibitor, explores a hydrophobic region of Vpr."
Eugene Boon Beng, Nobumoto Watanabe, Akiko Saito, Khaled Hussein Abd El Galil, Atsushi Koito, Nazalan Najimudin and Hiroyuki Osada, 2010, submitted.

"Structure activity relationships of synthesized procyanidin oligomers: their DPPH radical scavenging activity and the Maillard reaction inhibitory activity",
Akiko Saito, Noriyuki Nakajima, Heterocycles, 2010, 80, 1081-1090.

"Versatile synthesis of epicatechin series procyanidin oligomers, and their antioxidant and DNA polymerase inhibitory activity.",
Akiko Saito, Yoshiyuki Mizushina, Akira Tanaka, Noriyuki Nakajima, Tetrahedron, 2009, 65, 7422-7428.

"A p38 mitogen-activated protein kinase inhibitor screening method using growth recovery of Escherichia coli as an index.",
Kayoko Kawai, Akiko Saito, Tatsuhiko Sudo, Hiroyuki Osada, Anal. Biochem.
2009, 388, 128-133.

"Improvement of photoaffinity SPR imaging platform and determination of binding site of p62/SQSTM1 to p38 MAP kinase."
Akiko Saito, Kayoko Kawai, Hiroyuki Takayama, Tatsuhiko Sudo, Hiroyuki Osada, Chem. Asian J. 2008, 3, 1607-1612.