退化した線形偏微分方程式
未知数 に対して,たとえば という条件(等式)を考え,この条件を満たす を求めようとするとき,この等式を「(を未知数とする)方程式」と呼び,この方程式を満たす数 を「解」と呼びます. 同様に,未知関数に対して,導関数 を含んだ等式,たとえば という等式を考え,この条件を満たす を求めようとするとき,この等式を「(を未知関数とする)微分方程式」と呼び,この方程式を満たす関数 を「解」と呼びます.
微分方程式は大抵の場合解が無数にありますので,この方程式以外にいろいろな条件をつけて解が一つになるようにするのが普通です.その代表は「初期条件」で,特定の の値 における 解 の値 を前もって指定する条件です.たとえば, 等です.
高階の導関数 を含んだ
--------- (1)
等といったものも考えられます.
方程式の中で最高階の導関数の部分,たとえば (1) の の部分,をこの方程式の主部と言い,普通はここが一番大事なところになります.
ここがたとえば のようになっていると,
がなくなることになり,困ったことになることが多いのです.こういう場合,方程式が退化しているといいます.この例では「 で退化している」わけです.
ここまでの話では,未知関数の独立変数が1つ()でしたが,もっと多くの独立変数を持つ未知関数に対してその偏導関数を含んだ方程式が偏微分方程式です.それに対して,上のように独立変数が1つの場合は「常微分方程式」と言います.たとえば,未知関数
に対する方程式
はとても有名な偏微分方程式(波動方程式)です.こういった偏微分方程式に対しても,初期条件などいろいろな付加条件を考えて解を考えます. 最高階の部分が「消えてしまう」ような方程式が「退化した」方程式ですが,偏微分方程式の場合,消え方にもいろいろあり,上で述べた付加条件との兼ね合いが重要になります.たとえば
は, で初期条件を与える場合には,一番大事な に関する偏微分の部分が消えることになり,ほかの2階の偏微分は消えてはいませんが,「 で退化している」と言います.
私の研究は,「線形」と呼ばれるとてもよい性質を持った偏微分方程式で,超曲面で退化したものを中心に,解全体のなす集合の構造や特別な解の存在・非存在などを理論的に考察しています.(「超曲面」というのは3次元空間内の「曲面」を多次元に拡張した概念です.)
ウェーブレット解析
いろいろな物質を原子や分子に分解して考えることで,手に負えない多様性の中に秩序を見ようとするのと同様,さまざまな数列や関数(数値データや画像なども,数学的には数列もしくは関数とみなすことができます)を,基本となるものに分解することで,いろいろな分析・加工等ができます.
[図1:ドブシィ2と呼ばれるウェーブレット]
[図2:ドブシィ8と呼ばれるウェーブレット]
どういうものを基本的と思うかで,いろいろな分解の仕方が考えられますが,ウェーブレット(本来の意味は「小さな波,さざなみ」)と呼ばれる長くは続かないひとつの波をうまく選び,それを拡大縮小したり,横にずらしたり(平行移動)してできる無数の波を考え,これらを原子にあたるものと考えて信号や関数を分解し,この分解を利用していろいろなことをしようというのがウェーブレット解析です.図1は,ドブシィ2(Daubechies2)
と呼ばれる幅の小さなウェーブレットのグラフです. ウェーブレット解析は,周波数解析と似て,信号に含まれる異なった大きさの変化の仕方を抽出してくれますが,周波数解析と違った特性があり,最近いろいろな分野で使われるようになってきました.たとえば,画像圧縮のフォーマットである
JPEG の新しい仕様 JPEG-2000 では,ウェーブレットを使った圧縮アルゴリズムが使われています.詳しくは,JPEG 2000, JPEG2000とは -- 意味・解説 や
芦野隆一氏のページ
などを覗いてみてください. 私は,応用数学の研究者と協力して,ウェーブレット解析の基礎となる数学的理論やその応用について研究しています.
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- Application of wavelet transform to system identification,
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Ryuichi - Mandai, Takeshi - Morimoto, Akira Advances in pseudo-differential
operators (Proceedings of ISAAC congress in Tronto, 2003) 203-218 (2004)
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