CAD工学研究室

大阪電気通信大学工学部

電子機械工学科  新関雅俊


 

1.CAD工学

 計算機内に図形を表現して,扱うための基本的な技術のことを総合してCAD工学という.CAD工学にはCAD (Computer Aided Design) などの設計技術,CG (Computer Graphics),マルチメディア,バーチャルリアリティ(Virtual Reality), シミュレーション・アニメーション技術も含まれる.CAD工学研究室では、3次元のCADシステムにおける図形の表現方法および図形に関する幾何計算を行う方法を研究の中心とし、その技術を応用したさまざまな設計システムのソフトウェアの開発を行っている。

 

2.主な研究テーマ

(1)  3次元CADの開発

 ソリッドモデラ (Solid Modeler) と呼ばれる3次元形状を入力して扱うためのシステムの開発をし,計算機内部での表現方法,図形どうしの干渉処理の方法の研究を行っている.中でも特徴的なのは同次座標 (Homogeneous Coordinates) を一貫して用いることによって処理精度および表現力をアップした「完全4次元処理による形状処理システム」の開発を行っている.

図1. 3次元CAD(ソリッドモデラ)

また複雑な形状を曲面として表すための方法についても新しい技術が必要である。3次元CAD内で利用する曲面の表現方法として、分割曲面と呼ばれるものがある。これは多面体から出発して徐々にその角を切り落とすことにより少しずつ複雑な曲面を作成してゆく方法である。分割曲面 (Subdivision Surface) の新しい方式の開発をはじめとして,多重解像度立体の表現に関する研究およびモデリングシステムの開発を行っている.Catmull-Clark 曲面、Doo-Sabin曲面及びその同次座標化したものをさまざまな形で発展させた曲面の表現形式に関わる研究を行っている.

 

図2. 曲面を含む形状をモデリングするためのシステム

 

これらのモデリングシステムの内部で用いる干渉計算の方式として単純性の模倣 (Simulation of Simplicity) の理論を取り入れることによって,誤差に対する頑強性とアルゴリズムの単純化を実現している.これは同次座標を一貫して使っているシステムだからはじめて実現できるものと言える.3次元CAD内で利用されている計算を単純で正確なものにするために単純性の模倣の手法を取り入れる研究が行われている。

図2(b) 2次元集合演算計算テストシステム

 

(2) 遺伝的アルゴリズムによる設計システムの研究

細かいところまで対話的に入力することなく,おおざっぱな形状を指定して行き,次第にユーザが考えた形状をえてゆくための手法として「対話的な遺伝的アルゴリズム」がある.この手法を利用して,オフィスチェア,スニーカー,自動車のボディなどの設計を行うシステムを開発し,実験を行っている.形状には分割曲面などのモデリング手法を応用して利用している.

 

 

 

 

 

図3.スニーカーの配色および形状設計システム

 

4(a) .魚釣り用のルアーの形状設計システム

図4(b) ルアー用体表模様生成システム

セルオートマトン理論を応用

設計過程では,できるだけ仮想空間の中に作成した「バーチャルショールーム」内に設計対象をおき,その中で遺伝的アルゴリズムを用いた設計を行う手法を開発している.この方法によって,より実物の使用感に近い設計を実現している.

図5.オフィスチェア設計システム

      

   

図6.バーチャルリアリティによる設計システム

 

布地の模様を設計するための方法として、NAWLという模様の記述言語を開発し、またその言語で記述した文字列を遺伝的アルゴリズムで進化させるシステムを開発した。

図7. 布地の設計システム

(N-Weaving Language System)

図8. タータンチェック模様設計システム

 

(3) ソリッドモデラの応用技術

ソリッドモデラを応用して,設計に必要なさまざまなアプリケーションを開発している.立体形状の展開図自動生成システムの開発,三面図からの立体復元CADシステムなどのように設計において不可欠な技術をソリッドモデラに融合した形で利用できるようにしている.

図9. 形状の展開図作成システム

図10. 三面図からの立体形状復元システム

図面を描くとその形状が3次元のソリッドモデルとして生成

 

(4) CAD教育および形状認識能力の向上

CADを利用するための必要な図形や3次元形状を認識する能力を測定し,向上するための研究を行っている.立体を扱う教材および教育用CADソフトウェアの開発および,認識能力測定アンケートの実施を行っている.

このような問題をパソコン上あるいは携帯用ゲーム機上でとく練習をすることによって図学・製図に関連する能力を向上する方法を探っている。

図11. 立体形状認識テスト

三面図で表された形を正しく読み取る際にどのような能力を用いているか、そしてその能力をどのように測定するかに関して調査を行っている。そのための問題を作成するためのシステムを開発して、活用している。

図12. 三面図の理解能力テスト

図13.図面作成テスト 自動採点システム

 

(5) コンピュータグラフィックスの応用技術

(a) 結び目入力・表示システム

 数学における結び目理論の研究のための結び目の最適3次元表示システム,マルチメディア応用のための自動作曲システムの研究など,さまざまな分野にコンピュータグラフィックスを応用した研究を行っている.

図14a. 結び目理論用入力システム

図14b. 結び目理論用システムによる立体表示例

 

(b) 和声理論・対和法による自動作曲システム

 生物の進化の過程を模倣した方法(遺伝的アルゴリズム)を使用して、正しい和音進行を自動生成し、対和法理論でメロディを作成する自動作曲システムの開発を行っている。

図15.自動作曲システム

(対位法,和声法による作曲システム)

 

(c) カツラ設計用CAD

従来は紙にスケッチを描くことによって制作していたカツラを3次元の画面でデザインするシステムの研究を行っている。指定した髪の縫いつけ位置に基づいて、どのような髪型になるかをシミュレーションに基づいて予想することによって試作の回数を減らして効率よくデザインする方法を提案している。

図16.カツラシミュレーションシステム

 

図17.3次元カツラ設計CADによるウェフトの配置作業

 

図18.3次元カツラ設計CAD

 

(d) 写真からの塗り絵自動作成システム

画像処理の技術を使用し、写真から塗り絵を自動的に作成するシステムを開発している。どのようね色で塗り分けるともとの写真に近い絵が得られるかを判断し、小さすぎる領域を判別して補正することによって実際に塗ることができるぬりえを自動的に出力するシステムを開発している。

 

 

     

図19.画像処理技術を利用した写真からの自動作成システム

 

(e) 自動車用コンロッドの設計技術

3次元CADの応力解析の機能を使って、自動車のコネクティングロッドの設計技術の研究を行っている。CATIAで設計したコンロッドについて、大端部にエンジンサイクルの過程でかかる応力の計算からよりよい設計を得る方法について研究を行っている。

図20.コンロッドの応力解析

(f) 2次元CAD・3次元CAD教育

 2次元CADとして最もよく使用されているAutoCAD 及び、3次元CADであるCATIA, SolidWorksによる設計プロセスの体系化の研究を行っている。単に形を作るのではなく、部品に内在している「設計意図」を正しく反映した方法で部品を設計する方法を調査している。その方法に沿って部品を設計できるような教育方法の開発を行っている。

 

 

図21.2次元CADによる部品の設計

図22.3次元CADによる設計