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医療福祉工学専攻が取り組む最先端の研究

十字靭帯再建膝の大腿四頭筋を安全かつ効果的に強化する

大阪電気通信大学大学院
医療福祉工学研究科医療福祉工学専攻
小柳 磨毅 教授

 膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament : ACL)は脛骨プラトーの前方亜脱臼を抑制する重要な静的支持機構である.ACL損傷はスポーツ活動において高頻度に発生するスポーツ外傷で,膝の不安定性によって日常生活やスポーツ復帰に支障を来すため,移植腱を用いた再建術の適応となることが多い.スポーツ活動への早期復帰を果たす上で,再建術後の下肢筋力の回復は極めて重要である.しかし再建術後早期の膝伸展域における大腿四頭筋の強化は,収縮力が膝関節の前方剪断力を発生させるため,脆弱な骨―移植腱―骨複合体に対して力学的ストレスを与え,移植腱の損傷や弛緩,移植腱―骨移行部における骨孔への移植腱の癒合不全を助長する可能性がある.したがって再建術後の大腿四頭筋の強化は,膝伸展の運動範囲に制限を設けて段階的に解除する方法が一般的である.しかし屈曲域に限定した筋力強化は,トレーニング効果の角度特異性によって伸展域での筋力回復を遅延させるとともに,最もやっかいな合併症である膝屈曲拘縮を助長する可能性がある.このためACL再建術後膝には,早期から安全かつ効果的に大腿四頭筋を伸展域で強化するトレーニング方法が必要となる.そこで脛骨の前方移動を制動しながら膝伸展筋を強化する方法として,腹臥位で下腿近位を支点にした膝伸展運動(Front bridge exercise with proximal fulcrum : FBP)を考案した.ACL不全膝を対象に下腿遠位を支点(Front bridge exercise with distal fulcrum : FBD)とした膝伸展運動と比較し,トレーニングの安全性と効果について調査した.その結果,FBPはFBDと比較して膝伸展域30°において脛骨の前方移動が制動され,大腿四頭筋活動の指標である%MVCも80%を超える高値を示した.Flemingらは膝屈曲30°において脛骨前方移動量とACL strainに正の相関を認めたと報告した.すなわちACL再建術後の大腿四頭筋強化では,最終伸展域において脛骨の前方移動を制動することが移植腱へのリスクを軽減すると考えられる.これよりFBPはACL再建術後早期に膝伸展付近で安全に行える可能性が示唆された.  
この結果を踏まえて後方剪断力とトレーニング負荷を同時に高めるため,大腿遠位の後面から抵抗を加えた下腿近位支点による膝伸展運動(resisted front bridge with proximal fulcrum:RFBP)を考案した(図左).FBDと比較によりRFBPは膝伸展15°において脛骨の前方移動が制動され(図右),かつ大腿四頭筋に高い筋活動を認めた.さらにFBPとの比較においても制動効果と筋活動量が高く,再建術後のより早期に膝伸展域で大腿四頭筋を安全に強化できる可能性が示唆された.

出典:
  1. 小柳磨毅 十字靭帯再建膝の大腿四頭筋を安全かつ効果的に強化する 福井勉(編) ブラッシュアップ理学療法 234-238 三輪書店 2012

口腔咽喉音の無拘束モニタリングに基づく高齢者の嚥下機能の分析と評価

大阪電気通信大学大学院
医療福祉工学研究科医療福祉工学専攻
松村 雅史 教授

 2011年,我が国における65歳以上の高齢者は2980万人(総人口の23%),要介護高齢者は480万人に達している.また,単独世帯の高齢者(独居高齢者)も1894万世帯(総世帯数の38%)と年々増加していることから,高齢者の安全な生活の確保,誤嚥・転倒などの検知と要介護度の改善は,「健康日本」の最重要課題である. 嚥下障害は嚥下機能が低下することから始まり,嚥下機能を低下させる原因の一つに,嚥下に関わる器官の廃用性萎縮があげられる.従来,嚥下障害を有し,経口摂取を行っていない症例では,嚥下回数が減少するため,嚥下機能の低下が助長されるという報告がある.しかし,どの程度嚥下回数が減少すれば廃用性萎縮が生じるかという点は不明である.また高齢者や嚥下障害者の日常生活における嚥下回数を測定した報告も少なく,その理由として,日常の嚥下回数を簡便に計測可能なシステムが開発されていないことが一因と考えられる.飲み込む頻度(嚥下回数)を簡便に数値化することで,これらの点が明らかになることが期待できる. 従来の嚥下機能の評価方法として,嚥下造影検査・頸部聴診法・表面筋電図などの研究が行われている.いずれの方法も医学的検査・診断を行うためであり,拘束感があり簡便な方法とはいえない. このような背景のもとで,本研究では,頸部に装着した咽喉マイクロフォンを用いることにより,計測方法が簡便であり自動検出可能な嚥下回数自動検出システムを開発し,日常生活での嚥下回数の計測を行った.次に,口腔咽喉音の計測法を示し,20才から90才までの被験者の嚥下音(波形)の特徴を抽出し,自動検出法を提案した.そして,このシステムを用いて長時間の口腔咽喉音の計測結果より,日常生活における嚥下回数の変化,健常者と要介護高齢者の嚥下時間間隔の差異を見いだした.また,高齢者の新たな口腔機能プログラムについて述べた.さらに,高齢者がむせや顕性誤嚥を起こしたことを介助者に知らせるために,咳嗽を伴う顕性誤嚥あるいはむせを口腔咽喉音から検出した. 以上より,口腔咽喉音の解析に基づく嚥下回数自動検出システムは, 頸部に装着した咽喉マイクロフォンを用いることにより,無意識・無拘束で簡便に長時間計測を行うことができ嚥下機能評価方法として有効な手法であることが示唆された.今後,本研究をさらに発展させることで,高齢者を対象とした口腔機能に関する情報を含めた総合的な体調管理システム,口腔機能のリハビリテーション機器としての応用も期待できる.

出典:
  1. 「口腔咽喉音分析による嚥下回数の無拘束計測」,電気学会論文誌,Vol. 130. No. 3,pp.376-382(2010)
  2. 「嚥下回数の無拘束モニタリングと口腔機能評価への応用」,作業療法,Vol.31.No.1,pp.52-60 (2012.2)
  3. 「Non-restrictive monitoring of swallowing frequency using a throat microphone」
    uHealthcare 2011,8th International Conference on Ubiquitous Healthcare,shiga,JAPAN,Sept20-22.2011

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